石灰製品は、高病原性鳥インフルエンザの予防及び埋却処理、消毒等に使用され防疫に役立っています。そこで今回は、鳥インフルエンザ発生後、石灰がどの様に使用されているかをまとめてみました。 |
1.高病原性鳥インフルエンザとは |
鳥もA型インフルエンザウイルスの感染をうけます。鳥のウイルスは人のインフルエンザウイルスとは異なったウイルスのようです。鳥類のインフルエンザは「鳥インフルエンザ」と呼ばれ、このうちウイルスの感染を受けた鳥類が死亡し、全身症状などの特に強い病原性を示すものを「高病原性鳥インフルエンザ」と呼ばれています。 通常、ウイルスは、生きた細胞の中で増殖しますが、細胞が死滅してしまうと感染力を失うと同時に死滅することが確認されています。他の一部のウイルスの様に細菌の体内に入り込み細菌と一緒になり変異を起こすことは、鳥インフルエンザウイルスの性質上考えられていないようです。これらのことから、感染した鳥は殺処分され、焼却、埋却処理されます。埋却処理では鳥インフルエンザウイルスが腐敗菌等と変異を起こし、生存することはないようです。
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2.本病の患畜等確認時の措置 |
高病原性鳥インフルエンザの発生が確認された場合、発生後直ちに発生養鶏場を中心として最大半径30Kmの範囲内を移動制限地域・搬出制限区域とされ、家きん、卵、機材、飼料、排せつ物、病原体拡散の可能性のある物品の移動禁止、搬出制限、区域外への移動及び区域外への搬出が禁止されます。そして発生養鶏場では患畜の殺処分、鶏舎並びに関連施設の完全消毒が実施されます。 国の高病原性インフルエンザ防疫マニュアルにより死体は焼却、埋却及び消毒するよう指導されます。殺処分後、直ちに焼却又は埋却が行えない場合は、死体を消毒することとあります。汚染物品{@家きんの部分(肉、骨、臓器、羽毛)A家きんの生産物(卵)B家きんの排せつ物(糞、尿)C飼料及び敷料 D飼養管理又は防疫作業に用いた車両及び器具}も焼却、埋却又は消毒を行うよう指導されます。
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3.焼却、埋却処理について |
3.焼却、埋却処理について 山口県を例にとると、防疫措置に関し、特に死亡鶏及び殺処分鶏、飼料等は埋却処理がなされました。焼却処理がなされなかった理由は、次の点を考慮されたからのようです。 @膨大な量の鶏の死体、鶏糞、鶏卵などを焼却場に移動、搬入する必要がある。 A野外で焼却する場合には、悪臭や煙の発生、羽毛等の汚染物の拡散等が考えられ、完全に灰の状態までにするのに、かなりの時間がかかる。周辺の火災発生の危険性も考えられる。 Bこれらの物品の野外での焼却や焼却場へ移動することによるウイルスの拡散などの影響が考えられる。
防疫マニュアルに記載されている家畜伝染病予防法の埋却基準及び消毒基準は次の様に規定されており、石灰の使用について明記されています。
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家畜伝染病予防法施行規則 別表第二(第二十九条、第三十五条関係) 二 埋却の基準
区分 |
埋却を行う場所 |
埋却の方法 |
適 用 |
死体の埋却 |
次に掲げるいずれかの場所 |
1埋却する穴は、死体又は物品を入れてもなお地表まで一メートル以上の余地を残す深さとする。 |
埋却した場所には、次の事項を記載した標示をしておくこと。 |
1死亡獣畜を埋却する施設を有する死亡獣畜取扱場 |
2死体の上には厚く生石灰をまいてから土でおおう。ただし、土質の軽い土地においては石片等をもつて死体をおおつてから土でおおう。 |
1埋却した死体又は物品にかかる病名及び家畜にあつてはその種類 |
2人家、飲料水、河川及び道路に近接しない場所であって日常人及び家畜が接近しない場所 |
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2埋却した年月日及び発掘禁止期間 |
物品の埋却 |
人家、飲料水、河川及び道路に近接しない場所であつて日常人及び家畜が接近しない場所 |
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3その他必要な事項 | |
* 消石灰による消毒の部分のみ抜粋
種類 |
方 法 |
適当な消毒目的 |
適 用 |
薬物消毒 |
1消石灰による消毒 生石灰に少量の水を加え、消石灰の粉末として直ちに消毒目的物に十分に |
畜舎の床、ふん尿、きゆう肥、ふん尿だめ、汚水溝、湿潤な土地等 |
生石灰は、少量の水を注げば熱を発して崩壊するものを用いること。 |
発酵消毒 |
幅1メートルから2メートル、深さ0.2メートル、長さ適宜の土溝を掘り、この中に消石灰(生石灰に水を加えて粉末とした直後のものをいう。以下本項において同じ。)をさん布し病原体に汚染していない敷わら、きゆう肥等を満たし、その上に消毒目的物を1メートルから2メートルの高さに積む。その表面に消石灰をさん布してから病原体により汚染していないこも、むしろ、敷わら、きゆ肥等をもつて適当な厚さにこれをおおい、その上をさらに土をもっておおって少なくとも1週間放置醸酵させる。 |
ふん、敷きわら、きゆ肥等 |
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三 消毒の基準
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注意 消毒の実施の基準は、次のとおりとする。 1.畜舎の土床を消毒するには、土床に消石灰又はサラシ粉をさん布してから深さ0・三メートル以上掘り起こして、これを搬出した後、消石灰又はサラシ粉をさん布し、新鮮な土を入れ、搬出した土は、焼却又は埋却する。ただし、ブルセラ病又は家きんコレラ等の場合にあつては、消石灰、ホルマリン水、クレゾール水等を十分にさん布するだけでよい。
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3.1 京都府での埋却処理及び消毒 |
- フレコンバッグ内には鳥の死骸等が入れられた
- 埋却溝の底面に消石灰を5cmの厚さに敷き詰められた。また実際にはフレコンを被覆したビニールシート上面にも消石灰が敷き詰められたようである。
- 山口県における埋却処理も同様な方法がとられ、現在、埋却処理はこの方法が一般的なようである。
*図1,2は 「平成16年10月 我が国における高病原性鳥インフルエンザの発生と防疫措置 〜HPAIに関する防疫関連資料〜 」(財団法人 全国家畜畜産物衛生指導協会)より引用 |
3.2 粒状消石灰の使用 京都、浅田農産の鳥インフルエンザでは次の理由により大量の粒状消石灰が使用されました。 @鶏舎周りに消石灰を使用したところ、作業者(自衛隊、撒布施行業者)から、身体に入り込んで困るとのクレーム。 A鶏舎内の鶏糞の上に石灰を大量に被せる必要から、エアーを使った機械撒布をおこなったが、粉では飛散してうまく撒けない。 B撒布作業時に粉が舞い、環境面で近隣に悪い印象をあたえる。 Cマスコミが写真撮影などして報道することへの対策。
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4.石灰出荷量 |
鳥インフルエンザ防疫、消毒向け石灰出荷実績 |
日本石灰協会の緊急調査した結果は、下記の通りでした。
調 査 先: |
会員・組合員全91社 |
調査依頼日: |
平成16年3月19日 |
調査締切日: |
平成16年3月24日 |
調査結果 : |
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1月〜3/24 |
3/25〜5月見込み |
生 石 灰 |
165.0 t |
181.0 t |
消石灰(粉) |
823.4 t |
499.0 t |
〃(粒) |
1,683.9 t |
948.0 t |
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合 計 |
2,672.3t |
1,628.0
t | |
同調べによると、使用都道府県別では、京都府向けが最も数量が多く向けられましたが、予防用消毒の利用も多く、1府24県への出荷がありました。 | |
5.おわりに |
鳥インフルエンザ発生時には一般人の現場への立ち入りは禁止されます。現場を見ることは不可能であり、発生後は大変な事態となります。法規及び資料にて石灰使用方法の一例を紹介いたしました。業界としても発生後に使用されるのは本意ではなく、日頃からの予防対策を講ずることで再び発生の無いことを心から願っています。 |
(編集委員 岩田廣光 記) |