《石灰製造工業会》
目標
(1)

2008年度〜2012年度の5年間平均の石灰製造に関わるエネルギー使用量を1990年度に対し10%削減する

(2) 2008年度〜2012年度の5年間平均の石灰製造に関わるエネルギー起源のCO2排出量を1990年度に対し10%削減する
1.目標達成度

 エネルギー使用量の実績は,原油換算で1990年度121.8万kl,2010年度94.5万kl,2011年度81.9万kl であり,1990年度比32.8%の削減,前年度との比較では13.3%の減少となった。
 CO2排出量の実績は,1990年度354.0万t,2010年度262.6万t,2011年度229.4万tであり,1990年度比35.2%の削減,前年度との比較では12.6%の減少となった。
 2011年度はエネルギー使用量,CO2排出量共に目標値に対して下回る結果となり,これまでに実施してきた対策の効果は確実に得られている。
 2008年度〜2011年度の平均では,1990年度に対しエネルギー使用量は26.3%,CO2排出量は29.2%減少した。
 近年の生産動向を見ると,2002年度から2007年度まで6年連続で生産量が増加し(この間に25.7%の生産量増),その後2年連続で生産量が減少したものの2010年度は回復した。しかしながら,2011年度は東日本大震災・円高・タイの洪水等の影響により,2009年度並みの生産量となった。
 ここで,目標期間4年間の実績(2008〜11)に基づく5年間(2008〜12)の見通しは90年度比で,エネルギー使用量は▲20.2%,CO2排出量は▲21.5%と目標を過達見込みである。


● 目標採用の理由
(1) 目標指標の選択
 環境自主行動計画に参画以来,エネルギー使用量を目標指標としていたが,社会的にもCO2排出量への関心,要求が高まっており,2007年(2006年度実績)よりCO2排出量についても目標として採用することとした。製品毎に製造方法,製造能力,エネルギー使用量等が異なり,単純に原単位での比較は困難であるため,エネルギー使用量,及びエネルギー起源のCO2排出量を指標としている。
(2) 目標値の設定
 当初は京都議定書に定められた削減率[温室効果ガス排出量6%減]を考慮し目標設定していた。しかし,地球温暖化の抑制は世界的課題であり,石灰製造工業会としても更なる改善を実施し社会に貢献すべきと考え,2007年(2006年度実績)より削減目標値を6%→8%に上方修正した。更に2010年度より8%→10%に引き上げた。
2.震災の影響
(1)電力の排出係数の悪化の影響
 2011年度実績の調整後電力排出係数は,震災がなかったと仮定した場合に比べて28.7%と大幅増であり,この係数によって求められる当工業会の2011年度実績のCO2排出量は,震災がなかったと仮定した場合に比べて6.4万tと増加した。このCO2排出量増加分6.4万tは,2011年度の燃料も含めたエネルギー起源CO2排出量の2.9%相当であり,また,2011年度に実施した温暖化対策によるCO2排出削減量2.8万tの2.3倍に相当する。
(2)自家発電の活用による影響
 自家発電の活用についての報告は,1 社から得た。
  • 震災時の停電,及び計画停電による非常用発電機用として,軽油1.4kl 使用した。
(3)工場等の被災による生産減・停止による影響
 当工業会の生産活動の指標としている石灰の生産量が2010年度比10.6%減少したことは,他の要因も考えられるが,震災の影響による需要減で生産が減少したということが大きいと思われる。当工業会参加企業に対する調査の中で,これについての各報告内容を地区別に記載すると,以下の通りである。
1)東北地区:・参加企業の工場等の倒壊や津波など,直接的な被害報告はなかった。
  • 取引先の津波被害による工場停止で,生石灰で2010年度比20%の減産になった。
  • 4月〜9月期で2,500tの減産になった。
2)関東地区:・需要減により,2011年度生産量予想に対して23%減産になった。
  • 震災前後での出荷量を比較すると15%減少した。
3)中部地区:・2011年4月の生産量は30%減少した。
  • 燃料の需給が不安定になり,燃料不足からの生産減となった。
4)中国・九州地区:・需要減による生産減,及び一部の燃料・部材の調達が困難になった。
(4)その他の影響
 この度の震災をきっかけに,政府や電力会社からの節電要請に応えるため,各社様々な努力を行なったが,特に報告のあったものを紹介する。
 また,復旧・復興需要で生産増となったという報告は,1 社であった。
  • 夏季休暇を12日追加した。
  • 粉砕機等付帯設備の運転を夜間,または電力ピーク時間外にした。
  • 不足電力を補うため,発電機をリースしたことにより,400万円の費用が発生した。
  • 夏季電力不足期間の在庫確保のため外部タンクを借用して,900万円の使用料が発生した。
  • 震災による製品損害16.8百万円
  • 東北地区取引先工場の被災による減産分が西日本地区工場へ約2,000tシフトされた。
  • 震災後,屋根瓦用の漆喰製品の売上が約15%増加した。
3.目標達成への取組み
● 目標達成のためのこれまでの取組み
  • リサイクル燃料の使用拡大
  • 運転方法の改善
  • 排出エネルギーの回収
  • プロセスの合理化
  • 設備・機械効率の改善

● 2011年度に実施した温暖化対策の事例、推定投資額、効果
 2011年度に実施した対策事例として50件の報告があった。その投資額は約7億4千万円で,推計できる範囲でのエネルギー使用量削減効果は原油換算で約10,725kl(2011年度エネルギー使用量の1.3%相当),CO2排出量削減効果は約2万8千t(2011年度 CO2排出量の1.2%相当)である。対策内容は以下の通りである。


なお,調査を開始した2002年度以降実施した対策とその効果は以下のとおりである。


 景気の影響はあるが毎年平均11億1千万円程度の投資を実施しており,累計でのエネルギー使用量削減効果は原油換算で約15万5千kl,CO2排出量削減効果は約40万5千tである。

● 今後実施予定の対策
 2012年度以降に実施検討している対策として60件の報告があり,推定できる範囲内での投資金額は約13億5千万円で,削減効果は原油換算で約18,826kl(2011年度エネルギー使用量の2.3%相当),CO2排出量削減効果は約4万9千t(2011年度 CO2排出量の2.2%相当)である。対策内容は以下の通りである。


 これまでは,再生油,RPF等のリサイクル燃料使用拡大が当業種の対策の中心であったが,調達量には限りがあることから,設備・機械効率改善やバイオマス燃料及び再生可能エネルギーの導入にシフトしつつある。

● クレジットの活用状況と具体的な取組み状況
 該当なし。

4.クレジット調整(勘案)後CO2排出量
 該当なし。
5.実排出係数に基づく実CO2排出量


 CO2排出量の実績は1990年度354.0万t, 2010年度265.7万t,2011年度231.0 万tであり,1990年度比34.7%の削減,前年度との比較では13.1%の減少となった。
 ここで,目標期間4年間の実績(2008〜11)に基づく5年間(2008〜12)の見通しは90年度比で,エネルギー使用量は▲20.2%,CO2排出量は▲21.0%となる見込みである。

6.CO2排出量減の理由
● 1990〜2011年度のCO2排出量増減の要因分析
  以下の手順によりCO2排出量の減少の要因を分析した。
生産量の影響
 1990年度CO2排出量×(2011年度生産量/1990年度生産量)−1990年度CO2排出量
電力の炭素排出係数の影響
 2011年度電力によるCO2排出量×(2011年度排出係数/1990年度排出係数)
 −2011年度電力によるCO2排出量
総変化量から上記2項目を差しい引いた分を業種の努力分とした。


● 2010〜2011年度のCO2排出量増減の要因分析
  1990年度との比較と同様の手順で分析した。



● 2011年度の排出量増減の理由
  エネルギー起源

 1990年度との比較では,2011年度のCO2排出量は123.0万t減少した。生産量の減少の影響が41.6万t,リサイクル燃料の使用拡大,熱効率の改善,等これまでに実施してきた対策の成果は87.2万tとなった。これは継続的報告された改善による削減効果の推計(40.5万t)を大幅に上回る結果であった。これは,リサイクル燃料調達量はほぼ前年度並みであったが,生産量が減少したためと考えられる。
 前年度との比較ではCO2排出量は34.7万t減少し,内28.3万tが生産量の影響であった。一方,業種の努力分による削減は12.1万tであり,2010年度から2011年度にかけて実施してきた対策の成果が有効に現れていると言える。

工業プロセス起源

 石灰製造時に発生する工業プロセス起源のCO2は,石灰石,またはドロマイトを焼成する工程において,これらの主成分である炭酸カルシウム,炭酸マグネシウムの分解によるものである。従って,工業プロセス起源のCO2は技術的に改善する余地はなく,生産数量により決定される。


7.参考データ


 これまで継続的に実施してきた業界の努力と,生産量は減少したもののリサイクル燃料調達量はほぼ前年度並みで,使用割合が増加したことにより,1990年度比でエネルギー使用原単位は24%,CO2排出原単位は26%改善されている。2012年度生産動向は,2011年度より増加を見込んでおり,目標を確実に達成するためには引き続き改善対策を実施する必要がある。


8.民生・運輸部門からのCO2 排出削減への取り組み

● 本社等オフィスからの排出


● 物流からの排出


 改正省エネ法の特定荷主に指定されている企業は,中長期的にみてエネルギー消費原単位を年率1%低減させることを目標としている。そのために,車両の省エネ対策(大型化やデジタコ,エコタイヤ等の導入)や省エネ運転教育等に取り組んでいる。

● 低炭素製品・サービス等を通じた貢献
   都市ごみ焼却場などで使用される高反応性消石灰は,従来品と比較して使用量を大幅に低減できるため,製品等の輸送量の低減が可能となった。今後,LCA 的観点からの評価を目的として,この商品についてGHGプロトコルによるスコープ1〜2及びスコープ3の一部のCO2排出量を試算する計画を立案し,日本石灰協会で環境自主行動部会を中心に検討部会を組織して,本格活動をスタートした。
 また,石灰は焼却場のみならず幅広い分野で環境目的に使用されており,地球環境の維持改善に大きく役立っている。


● 国民運動に繋がる取組み
  • 2006年度に石灰の用途に関するパンフレットを作成。また,2007年度から毎年「石灰産業・環境への取組み」というタイトルのパンフレットを作成し,自治体や学校等へ配布を行い,石灰に対する更なる理解を得ている。2012年度版も作成予定。
  • 児童及び学生を含めた地域住民へ工場や鉱山の見学会を開催し,石灰製品及び環境への取組み対策等の説明を行うなど交流を行っている。また,県や地区で開催される産業展などへ積極的に参加を行い,環境への取組み等PR に努めている。
  • 目標達成度,CO2排出量,目標達成への取組み等をホームページで公表している。

9.エネルギー効率の国際比較
 日本の石灰製造に係るエネルギー効率やCO2発生量を諸外国と比較する他,温暖化防止に関わる新技術を探るために,国際石灰協会(ILA)を中心に,欧州石灰協会(EuLA),米国石灰協会(NLA),カナダ石灰協会(CLI)などとの情報交換や文献調査を継続中である。
 年一回開催されている国際石灰協会の運営委員会は,2011年は10月にメキシコシティーで開催された。経済情勢,移動距離等により,参加者は15か国34名と少数であった。石灰業界の重要な課題として二つのテーマ(気候変動,化学物質に関する政策)に関し,5か国から現状と取組みが紹介された。
  • オーストラリアは首相の交代等もあり,排出権取引の開始が遅れていたが,2012年7月に炭素税が導入される事が決定した。この価格は23豪ドル/t(約2,000 円/t)である。温暖化ガス(GHG)の削減目標は2020年度までに2000年比5%減,2050年までに80%減としている。
  • カナダは2020年までに2005年比17%削減という目標がある。カナダは米国と世界最大の二国間貿易関係にあり,最終的には米国と歩調を合わせざるを得ないとの説明があった。州により炭素税を導入しているか,今後導入を計画している州があるが,一方で州により税負担が違うゆがみも出ているとの説明があった。
  • 米国石灰協会では,2012年までにエネルギー起源CO2発生原単位を2002年比8%削減するという自主目標を掲げている。EPA(アメリカ環境保護局)は2011年1月2日以降に建設される設備に対し,CO2のBACT(最良なコントロール技術)を要求している。
  • EU からは次の説明があった。
    GHG は減少しているが,経済活動の減少によるもので実態ではない。GHGの削減目標は2020年までに25%としている。最も効率の良い設備のベンチマークが公表された。またCO2の排出リストとCO2 価格の修正が行われた。
  • 日本からは次の説明をした。
    主要国が歩調を合わせるなら2020年までにGHGを25%削減すると鳩山元首相は表明した。
    日本は首相が頻繁に変わり,福島の原発問題で原子力発電の比率が増やせないので,25%削減については不透明である。
10.3R と温暖化対策
 今回の調査では報告はなかった。
11.CO2 以外の温室効果ガス排出抑制への取組み
 フロンガスの石灰焼成炉での分解処理を実施している。
12.森林吸収源の育成・保全に関する取組み
 今回の調査では報告はなかった。
13.環境マネジメント、海外事業活動における環境保全活動等
 2011年度までで,ISO14001を取得しているのは8社である。
14.その他国際貢献
●途上国における排出抑制・削減に向けた取組み
 なし
● 国際会議等での活動
 なし
15.ポスト京都議定書の取組み
 経団連の低炭素社会実行計画へ石灰製造工業会として参加している。
注1. 本業種の主たる製品は生石灰,消石灰,軽焼ドロマイト,水酸化ドロマイトである。今回のフォローアップに参加した企業数は95社中91社でカバー率96%である。
2. 参加企業のエネルギー種毎の使用量を合計し,使用量当たりの発熱量,CO2排出量などの係数を乗じて工業会データとした。また,購入電力の換算係数は発電端の係数を使用している。
3. 当業界の生産活動量を表す指標は,主たる製品である生石灰,消石灰,軽焼ドロマイト,水酸化ドロマイトの生産量を採用し,原単位計算の分母とした。(生産活動指数の変化:1990年度1,08年度0.96,09年度0.88,10年度0.99,11年度0.88,目標年度見込み0.97)
4.

目標年の石灰生産量,エネルギー使用原単位及びCO2排出原単位については,2008年度実績値,2009年度実績値,2010年度実績値,2011年度実績値,2012年度は2009年度に見込んだ生産量を採用した。

5. 生石灰及び軽焼ドロマイトを1t生産するときに発生する非エネルギー起源のCO2は,それぞれ0.748t,0.815tとしている。
6. 日本鉄鋼連盟と協議し,石灰生産にかかわる数値の重複がないことを確認した。