《石灰製造工業会》
目標
(1)

2008年度〜2012年度の5年間平均の石灰製造に関わるエネルギー使用量を1990年度に対し10%削減する

(2) 2008年度〜2012年度の5年間平均の石灰製造に関わるエネルギー起源のCO2排出量を1990年度に対し10%削減する
1.目標達成度

 エネルギー使用量の実績は原油換算で1990年度121.8 万kl,2009年度86.4 万kl,2010年度94.5万kl であり1990年度比22.4%の削減,前年度との比較では9.4%の増加となった。
 CO2排出量の実績は1990年度354.0万t,2009年度239.1万t,2010年度262.6万tであり,1990年度比24.9%の削減,前年度との比較では9.8%の増加となった。
 2010年度はエネルギー使用量,CO2排出量共に目標値に対して下回る結果となり,これまでに実施してきた対策の効果は確実に得られている。
 2008年度〜2010年度の平均では1990年度に対しエネルギー使用量は24.1%,CO2排出量は27.1%減少した。
 近年の生産動向を見ると2002年度から2007年度まで6年連続で生産量が増加し(この間に25.7%の生産量増),その後2年連続で生産量が減少したが2010年度は回復してきている。これまでに実施してきた改善の成果と今後計画されている温暖化対策により,昨年度より目標値の引き上げを行った本目標を達成できると見込んでいる。2008年〜2012年の5年間平均の石灰製造に関わるエネルギー使用量及びエネルギー起源のCO2排出量を10%削減する。


● 目標採用の理由
(1) 目標指標の選択
 環境自主行動計画に参画以来,エネルギー使用量を目標指標としていたが,社会的にもCO2排出量への関心,要求が高まっており,2007年(2006年度実績)よりCO2排出量についても目標として採用することとした。製品毎に製造方法,製造能力,エネルギー使用量等が異なり,単純に原単位での比較は困難であるため,エネルギー使用量,及びエネルギー起源のCO2排出量を指標としている。
(2) 目標値の設定
 当初は京都議定書に定められた削減率[温室効果ガス排出量6%減]を考慮し目標設定していた。しかし,地球温暖化の抑制は世界的課題であり,石灰製造工業会としても更なる改善を実施し社会に貢献すべきと考え,2007年(2006年度実績)より削減目標値を6%→8%に上方修正した。更に昨年度より8%→10%に引き上げた。
2.目標達成への取組み
● 目標達成のためのこれまでの取組み
  • リサイクル燃料の使用拡大
  • 運転方法の改善
  • 排出エネルギーの回収
  • プロセスの合理化
  • 設備・機械効率の改善

● 2010年度に実施した温暖化対策の事例、推定投資額、効果
 2010年度に実施した対策事例として55件の報告があった。その投資額は約7億1千万円で,推計できる範囲でのエネルギー使用量削減効果は原油換算で約11,100kl(2010年度エネルギー使用量の1.2%相当),CO2排出量削減効果は約2万9千t(2010年度 CO2排出量の1.1%相当)である。対策内容は以下の通りである。


なお,調査を開始した2002年度以降実施した対策とその効果は以下のとおりである。


 景気の影響はあるが毎年平均11億5千万円程度の投資を実施しており,累計でのエネルギー使用量削減効果は原油換算で約14万kl,CO2排出量削減効果は約38万tである。

● 今後実施予定の対策
 2011年度以降に実施検討している対策として66件の報告があり,推定できる範囲内での投資金額は約14億1千万円で,削減効果は原油換算で約11,800kl(2010年度エネルギー使用量の1.2%相当),CO2排出量削減効果は約3万1千t(2010年度CO2排出量の1.2%相当)である。対策内容は以下の通りである。


 今後も継続的にこれまでと同様の改善が計画されている。これまでは,再生油,RPF等のリサイクル燃料使用拡大が当業種の対策の中心であったが,調達量には限りがあることから,設備・機械効率改善やエネルギー回収を狙った対策にシフトしつつある。

● クレジットの活用状況と具体的な取組み状況
 該当なし。

3.クレジット調整(勘案)後CO2排出量
 該当なし。
4.実排出係数に基づく実CO2排出量


 CO2排出量の実績は1990年度354.0 万t,2009年度241.8 万t,2010年度265.7 万tであり,1990年度比24.9%の削減,前年度との比較では9.9%の増加となった。
 2009年下期以降生産動向は回復基調にあり,これまでに実施してきた改善の成果と今後計画されている温暖化対策により目標を達成できると見込んでいる。

5.CO2排出量減の理由
● 1990〜2010年度のCO2排出量増減の要因分析
  以下の手順によりCO2排出量の減少の要因を分析した。
生産量の影響
 1990年度CO2排出量×(2010年度生産量/1990年度生産量)−1990年度CO2排出量
電力の炭素排出係数の影響
 2010年度電力によるCO2排出量×(2010年度排出係数/1990年度排出係数)
 −2010年度電力によるCO2排出量
総変化量から上記2項目を差しい引いた分を業種の努力分とした。


● 2009〜2010年度のCO2排出量増減の要因分析
  1990年度との比較と同様の手順で分析した。



● 2010年度の排出量増減の理由
  エネルギー起源

 1990年度との比較では,2010年度のCO2排出量は88.3万t減少した。生産量の減少の影響が4.3万t,リサイクル燃料の使用拡大,熱効率の改善,等これまでに実施してきた対策の成果は84.1 万tとなった。これは継続的報告された改善による削減効果の推計(37.7万t)を大幅に上回る結果であった。これは,リサイクル燃料調達において競合している他業界の生産活動が低調で,例年以上にリサイクル燃料を調達できたことも影響したと考えられる。
 前年度との比較ではCO2排出量は23.9万t増加し,内29.9万tが生産量の影響であった。一方,業種の努力分による削減は6.1万tであり,2009年度から2010年度にかけて実施してきた対策の成果が有効に現れていると言える。

工業プロセス起源

 石灰製造時に発生する工業プロセス起源のCO2は,石灰石,またはドロマイトを焼成する工程において,これらの主成分である炭酸カルシウム,炭酸マグネシウムの分解によるものである。従って,工業プロセス起源のCO2は技術的に改善する余地はなく,生産数量により決定される。


6.参考データ


 前述のとおり, これまで継続的に実施してきた業界の努力と,例年以上にリサイクル燃料を調達できたことによる使用割合の増加等の要因により,エネルギー使用原単位は21%,CO2排出原単位は24%改善されている。2011年,2012年度生産動向は,2010年度より増加を見込んでおり,目標を確実に達成するためには引き続き改善対策を実施する必要がある。


7.民生・運輸部門からのCO2 排出削減への取り組み

● 本社等オフィスからの排出


● 物流からの排出


 改正省エネ法の特定荷主に指定されている企業は,中長期的にみてエネルギー消費原単位を年率1%低減させることを目標としている。そのために,車両の省エネ対策(大型化やデジタコ,エコタイヤ等の導入)や省エネ運転教育等に取り組んでいる。

● 低炭素製品・サービス等を通じた貢献
   都市ごみ焼却場などで使用される高反応性消石灰は,従来品と比較して使用量を大幅に低減できるため,製品等の輸送量の低減が可能となった。今後,LCA的観点からの評価を目的として,この商品についてGHGプロトコルによるスコープ1〜2及びスコープ3の一部のCO2排出量を試算する計画を立案中である。
 また,石灰は焼却場のみならず幅広い分野で環境目的に使用されており,地球環境の維持改善に大きく役立っている。


● 国民運動に繋がる取組み
  • 2006年度に石灰の用途に関するパンフレットを作成。また,2007年度から毎年「石灰産業・環境への取組み」というタイトルのパンフレットを作成し,自治体や学校等へ配布を行い,石灰に対する更なる理解を得ている。2011年度版も作成予定。
  • 児童及び学生を含めた地域住民へ工場や鉱山の見学会を開催し,石灰製品及び環境への取組み対策等の説明を行うなど交流を行っている。また、県や地区で開催される産業展などへ積極的に参加を行い,環境への取組み等PRに努めている。
  • 目標達成度,CO2排出量,目標達成への取組み等をホームページで公表している。

8.エネルギー効率の国際比較
 日本の石灰製造に係るエネルギー効率やCO2発生量を諸外国と比較する他,温暖化防止に関わる新技術を探るために,国際石灰協会(ILA)を中心に,欧州石灰協会(EuLA),米国石灰協会(NLA),カナダ石灰協会(CLI)などとの情報交換や文献調査を継続中である。
 2009年10月にカナダ・バンクーバーにて開催予定だった国際石灰協会の運営委員会は,世界的な経済危機のあおりを受け中止となったが,2010年は10月にドイツ・ベルリンで開催された。
石灰業界の重要な課題として二つのテーマ(気候変動、化学物質に関する政策)に関し,5ヶ国から現状と取組みが紹介された。
  • オーストラリアは首相の交代等があり,排出権取引の開始が遅れている。再生可能エネルギーの目標を2020年までに20%に拡大した。温暖化ガスの削減目標は2020年度までに2000年比5%減としている。
  • カナダは2020年までに2006年比20%削減という目標がある。温暖化ガスの報告は2003年から必要とされている。カナダは米国と世界最大の二国間貿易関係にあり,最終的には米国と歩調を合わせざるを得ないとの説明があった。石炭火力発電所の環境負荷改善計画が発表されており,そのために天然ガスや再生可能エネルギーを燃料とした高効率発電も考えている。州により炭素税を導入しているか,今後導入を計画している州があるが,一方で州により税負担が違うゆがみも出ているとの説明があった。
  • 米国石灰協会では,2012年までにエネルギー起源CO2発生原単位を2002年比8%削減するという自主目標を掲げている。2012年の目標値0.62t/t-Lime であるが,これには電力の排出係数の改善も含んでいる。実績は2002年0.68,2009年0.64 であった。温暖化ガスの報告制度が2010年1月1日に発効し,最初の報告は2011年3月31日からである。アメリカのクリーンエネルギー法であるWaxman-Markey法は2009年6月に下院を通過したが,上院で2010年夏に却下された。また下院はキャップ&トレード方式を2012年から2017年に延期した。
  • EUはCOPの合意内容によってはCO2削減目標を20%から30%に引き上げる事も考えていたが,COP15(2009年12月コペンハーゲン)の結果により未定となった。オークションに関しては,電力公社は2013年以降全量オークション,その他の産業では無償割り当ては2013年80%,以後減少し2020 年は30%,そして遅くとも2027年には0 とする(全量オークション)
  • 日本からは鳩山政権による新たなCO2削減目標値の公約を紹介した(主要国の参加を前提として2020年までに90年比25%削減。)また,石灰製造工業会としての環境自主行動計画の取り組みと実績も紹介した。
9.3R と温暖化対策
 今回の調査では報告はなかった。
10.CO2 以外の温室効果ガス排出抑制への取組み
 フロンガスの石灰焼成炉での分解処理を実施している。
11.森林吸収源の育成・保全に関する取組み
 今回の調査では報告はなかった。
12.環境マネジメント、海外事業活動における環境保全活動等
 2010年度までで,ISO14001を取得しているのは10社である。
13.その他国際貢献
●途上国における排出抑制・削減に向けた取組み
 なし
● 国際会議等での活動
 なし
14.ポスト京都議定書の取組み
 経団連の低炭素社会実行計画へ石灰製造工業会として参加している。
注1. 本業種の主たる製品は生石灰,消石灰,軽焼ドロマイト,水酸化ドロマイトである。今回のフォローアップに参加した企業数は95社中92社でカバー率97%である。
2. 参加企業のエネルギー種毎の使用量を合計し,使用量当たりの発熱量,CO2排出量などの係数を乗じて工業会データとした。また,購入電力の換算係数は発電端の係数を使用している。
3. 当業界の生産活動量を表す指標は,主たる製品である生石灰,消石灰,軽焼ドロマイト,水酸化ドロマイトの生産量を採用し,原単位計算の分母とした。(生産活動指数の変化:1990年度1,07年度1.08,08年度0.96,09年度0.88,10年度0.99,目標年度見込み1.02)
4.

目標年の石灰生産量,エネルギー使用原単位及びCO2排出原単位については,2008年度実績値,2009年度実績値,2010年度実績値,2011〜2012年度は2009年度に見込んだ生産量を採用した。

5. 生石灰及び軽焼ドロマイトを1t生産するときに発生する非エネルギー起源のCO2は,それぞれ0.748t,0.815tとしている。
6. 日本鉄鋼連盟と協議し,石灰生産にかかわる数値の重複がないことを確認した。