■特集005 石にまつわる話「 関東編 その3 秩父 」
今回は秩父地方の「石」を紹介します。
秩父は埼玉県の西部に位置し、そのほとんどが周りを山に囲まれた盆地の中にあります。その秩父盆地の中心から見ると、南東に秩父の象徴となっている武甲山があり、東方には関東平野と秩父盆地を隔てている堂平山などが連なっています。また、西〜南方には両神山、山岳信仰のメッカ三峯山、北側には城峰山を望んで、まさに盆地ということを実感できます。     
これら山の中でも南西の方向にある奥秩父の山々は険しく、いく筋かの清流が湧きだし、その一筋は関東平野に向かい、深い谷をきざみ中津渓谷を形成しています。中津渓谷を過ぎた清流は秩父盆地に入り、荒川として埼玉を潤し、東京湾に流れ込んでいます。

このような土地柄の秩父ですが、数々のイベントや観光名所等もあり、特に「秩父夜祭り」や、「札所巡り」、「長瀞ライン下り」等が有名です。また最近では「そば」の町として知られ、多くのそば処があり、観光客が絶えることがありません。
 
さて、今回はこの秩父の中から石にまつわる名所を幾つか紹介させて頂きます。

1.武甲山(ぶこうざん)

 秩父市に入ると目前に雄大な姿を見せてくれる山が武甲山です。海抜1295m、ほとんどが石灰岩で構成されているこの山は、日本百名山の一つに上げられる麗峰です。石灰岩で構成されているということから、この山は古くは海の底にあったことが容易に想像できます。この武甲山は信仰の山として知られ、日本武尊が東征の折りに登拝した山とされており、山頂には今尚御嶽神社が祀られています。
 また、この山腹には天然記念物チチブイワザクラが群生しており、岩壁に垂れるミヤマスカシユリなど石灰岩地帯にしか見られない植物もあります。
2.橋立鍾乳洞(はしだてしょうにゅうどう)

 埼玉県立武甲自然公園の中心、武甲山の西麓を占め
る橋立鍾乳洞は天然記念物としての指定を受けていま
す。
この鍾乳洞はおおいかぶさるような高さ75mの岩
壁の中にあり、鍾乳洞内は二つの大房に別れ、たて穴
式で大変珍しいものらしいです。実際中に入ってみると、洞内は細く曲がりくねっているうえ、アップダウンも
激しくその複雑さを実感できます。10分足らずで全
行程を見ることができますが、至る所に「鍾乳石」「石筍」「石柱」があり、ここを訪れる人の目を楽しませてい
ます。
 また、ここは札所28番「橋立堂」があり、特に休日には多くの参拝者が訪れています。
3.長瀞(ながとろ)

  奥秩父に端を発した清流が荒川となり、秩父盆地から流れ出る付近の瀬や瀞が形成されているところが長瀞です。ここは、さまざまな結晶片岩が露出し、広大な岩石段丘(岩畳)が見られます。多くの貴重な学術資料に恵まれ、日本地質学発祥の地とも言われています。
 岩畳を形成する結晶片岩は幅数十m、長さ約600mにわたり、荒川を挟んだ対岸には険しい岩壁がそそり立ちます。その岩壁には地殻変動に伴って形成された褶曲や断層等が見られます。その他にも虎岩と呼ばれる珍しい岩もあり、この岩は、褐色と白色の石の織成す縞模様が虎の毛皮のように見えることからこの名前がつきました。褐色の部分はスチルプノメレン、白色の部分は石英、曹長石、方解石などの鉱物でできています。
 これらの絶景を眺めながらの「長瀞ライン下り」はあまりにも有名で、特に春の桜、秋の紅葉の季節には多く人が訪れこの長瀞ならではの情緒を満喫しています。

 また、上長瀞駅のすぐ近くには、埼玉県立自然史博物館があり、化石をはじめ、鉱物・岩石・地層が年代の古い順に展示され、3億年の生い立ちを語りかけてくる他、長瀞の変成岩をはじめとする岩石に手で触れることができます。機会があれば一度立ち寄ってみてはいかがでしょう?(自然史博物館:http://www.kumagaya.or.jp/~sizensi/index.html
4.浦山ダム(うらやまダム)

 浦山ダムは秩父郡荒川村に位置する多目的ダムで、1998年11月11日に竣工し、荒川水系では最大です。また、重力式ダムとしては国内で2番目の高さを誇り、諸元は、堤高156m、堤頂長372m、堤体積175万立方メートルとなっています。洪水の防御、流水の正常な機能の推進を図るほか、埼玉県、東京都、秩父市の水道用水供給源となっています。また、最大出力5000Kwの発電も行っています。
 この浦山ダムの建造にあたっては、周辺の山々や武甲山の石がコンクリートの骨材として大量に使用され、私たちの生活に寄与しています。

(編集委員 坂本知彦記)